KAMINOGE編集長が語る「本づくりはプロレスだ!」編集長インタビュー

 

創刊から9年目に突入する、玄文社発行の人気プロレス本!
その名も「KAMINOGE」。

かつて刊行されていた「紙のプロレス」(通称:紙プロ)の後継誌として2011年に創刊されたこの書籍は、「世の中とプロレスするひろば」というモットーを掲げ、プロレス誌の中でも「特にプロレスを語らないプロレス本」という、これまでの既成概念を打ち破る月刊誌。毎号の表紙には人気プロレスラーやミュージシャン、タレントを起用し、書店店員で知らない人はいないほどの売れ筋プロレス本!

今回は、KAMINOGE制作の裏側に迫ります!
編集長である有限会社ペールワンズ 井上崇宏さんから、このような型破りの書籍がいかにして作られているのかを探ります。尚、井上さんがKAMINOGE編集部について公の場で語るのはこれが初めてだそうです。

 

「自分で何か作ってもいいのかな?」その想いから始まったKAMINOGE

 

インタビュアー(以下:イ):はじめにこの本の名前「KAMINOGE」の由来について教えて下さい。

井上さん:由来は二つほどありまして、まず一つ目は新日本プロレスの道場が上野毛(かみのげ)というところにあるということ(正確な住所は世田谷区野毛)。つまりプロレスファンにとってはパワースポットというか。もう一つは「紙プロのゲノム(DNAのこと)」という、これはそこまでこだわりは強くないんですけど……。とにかくそれで「KAMINOGE」という名前になりました。

昔、「紙のプロレス」、通称・紙プロというプロレス雑誌があって、この紙プロも「KAMINOGE」と同じでプロレスラーだけが出ているような媒体ではなかったんですね。僕も大学時代に熱狂して読んでいた雑誌だったんですけど、2011年の3月に休刊しちゃったんですよ(休刊当時の誌名はローマ字表記で「kamipro」)。

僕も「kamipro」には外注ライターとしてたまに書かせてもらったりしていたんですけど、休刊して半年くらいが経ち、「kamiproが復活しないのなら自分で何か作ってもいいのかな?」という気持ちになって、「KAMINOGE」が誕生しました。

 

イ:井上さんは、プロレス業界に携わってどのくらいになるのですか?

井上さん:大学を卒業した年からなので、1995年からです。
じつは当時はプロレスに関わる仕事がしたいとは思っていなかったんですよ。プロレスファンとして「週刊プロレス」は昔からずっと好きで読み続けていて、ある日ふと最新号を読むと編集部がアルバイトを募集しているのを見つけまして。で、週プロってアルバイトから社員になれるシステムだったんですけど、僕は大学を卒業してしばらくフリーターみたいなことをしていたので、「週プロにバイトで入れたら、いずれ自分でも会社員になれるんじゃないか?」と。しかも応募条件は「経験不問・明るい人・素直な人・挨拶ができる人」みたいなハードルが低い感じだったので、これは自分にも応募資格があるだろうと(笑)。それで面接を受けたら本当に受かっちゃいまして。当時の週プロは公称40万部を発行していたオバケ雑誌だったので、その時バイトの面接に集まったのが100人くらいいたと思うんですけど。

 

イ:週刊誌で40万部…。そんなにも売れていたのですね!

井上さん:昔はプロレスもテレビのゴールデンタイムで中継されていたんですよ。新日本プロレスが金曜日の夜8時で、全日本プロレスが土曜日の夜7時っていう。金曜8時なんて裏番組が「金八先生」とか「太陽にほえろ!」じゃないですか。そんな中でプロレスが20%以上の視聴率を獲ったりしていて。僕が小学生の頃の話なんですけど、それくらいプロレスって人気だったんですね。

僕らは第二次ベビーブームの世代で、だからジャンプとかファミコンとかガンダムのプラモデルとか、とにかく子供向けのコンテンツ、娯楽には恵まれていました。それである日、タイガーマスクがプロレスのリングに立ったんです。

タイガーマスクというキャラクターが漫画やアニメの世界から飛び出し、リアルなプロレスのリングに登場してきて。正体は佐山サトルっていう天才レスラーだったんですけど、既視感ゼロの華麗な空中殺法に僕らちびっこが魅了されたんですね。タイガーマスク出現の瞬間からプロレスが「おじさんが観るもの」から「子供も観る娯楽」に変わったんです。今思えば、あのタイガーマスクもベビーブームの子供たちに向けた企画だったんですよね。

でもそのタイガーマスクが人気絶頂のまま2年くらいで引退しちゃって、そこでほとんどのちびっこはプロレスから離れていくんですよ。のちにテレビもゴールデンタイムから外れていったんですけど、そういう状況になった時に、活字で読むプロレスの時代がやってきて。

 

イ:タイガーマスクを観ていた世代の子供たちが週刊プロレスを読んでいたということですね。

井上さん:まだインターネットも無い時代ですから。ターザン山本さんという人が編集長をやっていて、週プロに載ってる試合レポートのほうが実際のプロレスの試合よりも面白かったりすることもあって(笑)。

 

これまで語られることのなかった現KAMINOGE編集部の内情

 

イ:現在、KAMINOGEはどのようなチームで作られているのですか?

井上さん:創刊からもうすぐ丸8年になりますけど、ずっと編集部は3人とか4人体制だったんですね。でもここ1年くらい編集部は僕ひとりです。基本的には僕が台割とか表紙を決めるひとり会議をやって、外部のライターやデザイナーと一緒に作ってる感じです。なんせ編集部がひとりなので、次号の表紙は誰とか、SNSで告知するまで僕とデザイナー以外は誰も知らないってノリなんですけど(笑)

 

イ:えええええええええ!!ひとり!?(驚愕)

井上さん:そうなんですよ。でも紆余曲折を経てひとり編集部がベストだと思ったというか。これは本当の本音で(笑)。だからそのぶん外部の人たちにはめちゃくちゃ協力してもらってますよ。堀江ガンツっていうライターがいまして、彼は元紙プロの編集者なんですけど、この人のことはもう創刊の時からずっと頼りにしていますね。同世代で、同じ時代の同じものを見てきた仲間みたいな感じで、彼の出す企画には間違いがないというか。それで自分はそのガンツ君の企画と被らないようにしたり、敢えて被せてみたりしながら企画を考えてますね。表紙が入稿直前まで決められないことも多々あって、よく版元の社長に怒られてますけど。

 

イ:お1人でやっていたなんて…読者の方々も相当驚かれるでしょうね。しかし表紙から、中のコンテンツからセンスを感じます。手に取りたくなるデザイン性も。

井上さん:だから堀江ガンツというライターやデザイナー、それぞれのセンスがいいんですよね。デザイナーだけじゃなくてカメラマンも非常に優秀ですし、テープ起こしや校正を一緒にやってくれる人とかにも凄く助けられていて。これらの人たちはみんなもともと友達なんですよ。だからなんとなく僕が好きな感じもわかっているし、本当に仲間には恵まれているというか。やっぱり仕事って気の合う人、センスの合う人としたほうが絶対にいいですよね。ラクですし。もう、敢えて相性の良くないというか、毛色の違う人と仕事をすることで起きる化学反応とかいらないと思ってますし、出会いたいとも思わないですから(笑)

 

イ:企画については読者のニーズなどを見て考えているのですか?

井上さん:僕らと同年代の男性が多いんだろうなっていうことはなんとなくわかるんですけど、読者の顔が見えそうで見えないところがあるので、ニーズが何なのかがわかっていないですね。ただニーズはどうあれ、プロレスとか格闘技の知識がない人でも面白いと思ってもらえるように構成しているつもりではいるんですけど。

 

イ:甲本ヒロトさんが表紙だったりする時もありますよね。異ジャンルとの繋がりも深いのですか?

井上さん:いや、そういう業界とのコネクションはほぼないですね。コネのない中で、もともとお知り合いだったりとかする場合は別として、いつも直接的にはあまり強くないルートでたどり着く感じですかね。たとえばTBSのプロデューサーの藤井健太郎さんとかにはよく相談に乗ってもらったり助けていただいたりしていますね。間接的には強烈なルートを駆使するっていう(笑)。ミュージシャンとか芸能人の方にもプロレス好きな人が多くて、僕はあくまで「プロレスに詳しいおじさん」なので、プロレスが好きな人とは仲良くなれるじゃないですか。最近出ていただいた歌舞伎役者の中村獅童さんとかも、最初はプロレスファンの繋がりで知り合って、わいわいプロレス談義をしている中で「これ、同じことをKAMINOGEでも話してくれませんか?」みたいな。でも、これって編集者あるあるじゃないですか? たとえば釣り雑誌の編集長は、釣り好きの有名人とかとめちゃくちゃ仲良いと思いますよ。僕たちはそれぞれの「専門おじさん」であって、何か人間的な魅力があるわけではないので、プロレスという共通の趣味がないと誰ひとり仲良くしてもらえないですよ(笑)

 

人生そのものがプロレスだ!プロレスという哲学。

 

イ:企画を作る時に心掛けていることはありますか?

井上さん:企画というよりもがんばって面白い取材をやりたいと心がけてる感じですかね。KAMINOGEはほぼインタビューと対談だけでできている月刊誌ですから、インタビューが面白くないと本としてまずい。週刊プロレスもありますし、団体独自のメディアやABEMAとかで毎日のように試合中継もある。その一方で、僕たちは月に一度だけ発売されるメディア。ということは「こないだの試合、どんな気分だったんですか?」とか「今度の試合に向けて意気込みを」なんてやっていても追いつかないし、間に合わない。なので、どのジャンルの方でも「この人はどういう人なのか」を伝えようという気持ちは大切にしています。

 

イ:プロレスを広めたいというお気持ちはあるのですか?

井上さん:それは特にないかもしれないですね。ただ、長年プロレスを観すぎて、研究しすぎているうちに、もう僕の人生や生活そのものがプロレスになっちゃってるんですよね。本を作ることもプロレスっていうか。知ってほしいとかそういうことじゃなく、もうこの世の全部がプロレスなんですよ(笑)。たとえば仕事でメールを打ちますよね。「社長、いつもお世話になっています」の語尾を「!」にするか普通に「。」にするか。それを考えること自体もプロレスじゃないですか。

 

イ:意味がわからないです!!

井上さん:それ! 今「意味がわからないです!!」ってセリフを声のトーンを上げておっしゃったのもプロレスですよね。

 

イ:どういう思想なのでしょうか?

井上さん:つまり、行き着くところは「社会で生きるためのコミュニケーション」です。
「社長、いつもお世話になっています!」とメールしたときは「今日は社長にちょっとお願い事があります」っていうような、要するに僕が格下ですね。これが冒頭が「お世話さまです」だと「社長さんね、今日は勝敗わかんないですよ。一言言いたいことがあります」という緊張感が窺えますよね(笑)

そういうことなんです。昔、作家の村松友視さんが「男はみんなプロレスラー」という本を出したんですけど、本当にその通りで、職場とか、学校とかで、男はみんなプロレスラーなんですよ。

 

イ:演じてるということですか?

井上さん:演じてるのとは少し違います。後尾社長(玄文社社長)、ご自宅での姿は今と全く一緒ですか?

後尾:あー。そういえば変えていますね。

井上さん:「そういえば」ですよね? 変えているという意識がないですよね。つまり演じているつもりはないんですけど、プロレスをやらないと人間関係って上手くいきませんから。そう考えると、僕がインタビューなんかをする時も、相手と向き合って一発目に何を喋るのかとか、相手のほうはどういう出方でくるのか、どういう口調で受け答えをしてくれるのかとか、そうやって探り探り対話をすることも全部プロレスなので、その空気感、様子みたいなものを「KAMINOGE」の誌面から感じてほしいです。

だから「プロレス=四角いリングの中で力持ちの男たちが戦う」ってことではないんですね。世の中で起きていること、人間がやっていることは全部プロレスだと思っています。そこで明確な勝ち負けもあれば、不透明で怪しい部分だっていっぱいある。毎日玄関を出て、大げさに言うと向かう先は社会という名のリング。だから家は控え室ですよね。

 

イ:それならこれだけは聞いておきたい!井上さんが家を出る瞬間、どんな入場テーマ曲が脳内に流れるんですか?

井上さん:たしかに脳内で鳴らしてますけど、それは恥ずかしいので言いたくないです(笑)

 

 

プロレスに詳しくなくても面白おかしく読めるプロレス月刊誌、「KAMINOGE」。
実は書籍として販売されているため広告がなく読みやすい。様々な視点から自由にプロレスの素晴らしさを伝えられる珍しい形態の書籍です。

 

さて、これまで語られてこなかった編集部の裏側を少しお見せできたのではないかと思います。玄文社では今後も引き続きKAMINOGEを追いかけ続けます!KAMINOGEは定期購読が断然お得!

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