創刊から9年目に突入する、玄文社発行の人気プロレス本!
その名も「KAMINOGE」。
2011年に休刊となった「紙のプロレス(kamipro)」(通称:紙プロ)の後継誌として創刊された本誌。「世の中とプロレスするひろば」というモットーを掲げ、プロレス誌でありながら「特にプロレスを語らないプロレス本」として既成概念を打ち破った月刊誌です。書店店員にも多くの熱烈ファンを抱える本誌は、昭和プロレスに熱を上げたプロレスファンを中心に愛読されています。
しかし、KAMINOGEはプロレス・格闘技ファンでなくとも楽しめる一冊であることをご存知でしたか?
今回は、一見するとKAMINOGEの読者ターゲットとは真反対に思える「20代女性・プロレス格闘技知識なし」の会社員にKAMINOGEを実際に読んでもらい、リアルな感想を述べてもらいました!
プロレス・格闘技ファンでない読者の視点から見えてきたKAMINOGEの魅力に迫ります。
本当にプロレス月刊誌!?と思うような装丁と重厚な企画数に驚愕
今回KAMINOGEを拝読するにあたり、前情報として「KAMINOGEは月に一度出版されているプロレス本です」ということだけ伺っておりました。
正直に告白すると、「むさくるしく、男くさい雑誌が届くのかな」と思っていたんです(苦笑)。
しかし、良い意味で月刊誌とは思えないクオリティの一冊が手元に届き、俄然KAMINOGEへの興味が湧きました。
■若い女の子も堂々と読める!?「目で見て楽しむ誌面」は思わず手に取りたくなる
KAMINOGEの大きさは正確に表記すると14.8 x 1.4 x 21 cm。この大きさ、読書家の方であれば共感していただけると思うのですが「じっくり本を読む」時に負担のない大きさで好印象でした。大きすぎず、特に、一般的な雑誌はやや大きいのでカバンに入れての持ち運びが不便ですし、机の上において広げないと落ち着いて読めない大きさなんですよね。
その点、KAMINOGEはコンパクトな大きさなので通勤中や移動先の隙間時間に読むのにも最適です。社会の荒波と戦いながら、息抜きに読む一冊として想定されているのかもしれませんね(笑)。
KAMINOGEは手触りの良い紙のカバーで装丁されており、本の中身はもちろんフルカラー印刷。ページレイアウトの面で見ると「目で見て楽しむ誌面作り」が一冊を通して徹底されています。率直な感想で恐縮ですが、「プロレス本」と聞いてイメージするのよりもはるかにオシャレでイマドキなデザインが施されていたのが意外でした(笑)。
それこそ、私のような若い会社員の部屋の机の上にポンっと置かれていても、全く違和感なく溶け込むイメージです。電子書籍ではなく、現物として購入し、本棚に並べてコレクションしたくなる本ですね。これ、部屋のインテリアにこだわりたい方にとっても地味にポイントが高い気がします。
このデザインは私のようにプロレスのことを全く知らない読者であってもKAMINOGEがとっつきやすく感じる理由の一つだと思います。取り上げられているレスラーさんや格闘家の方を知らなくても、「ちょっと読んでみようかな」とページをめくりたくなるような誌面って、簡単そうに思えて実はかなり難しい気がしています。
■インタビュー企画が7本も掲載!読者目線で考えられた企画に編集部の愛を感じる
また、目次に目を通すと読み物系の企画が全部で17本、そのうちインタビュー企画が7本も掲載されていることにかなり驚きました。
他の書籍であれば、インタビュー記事ってその本の中での「目玉特集」に値する企画であることが多いですよね。それはインタビューで語られる内容が「本誌独自」「本誌初公開」であることが多く、たくさんの読者の関心を引くことが出来るから。書籍をより多く売り上げることを考えると、収穫のあったインタビュー企画をあるだけ掲載するのではなく、1冊につき取材企画は特集枠の1本に絞り、毎月「特別感」を煽って購入を促したほうが良いのでは、と素人の私でも思いつきます。
しかし、KAMINOGEはインタビュー企画を惜しげもなく毎月たくさん盛り込んでいます。これは「儲けるため(本をたくさん売るため)の手段としてインタビューを掲載する」のではなく、「本当に良いと思った話を、プロレス・格闘技を愛する同志に向けて発信したい」という編集部による献身的な愛を感じます。なんていうんでしょう、読者が本当に読みたいと求めているモノを形にすることを徹底した本であると感じました。
プロレスを真正面から語る企画から全くプロレスを語らない企画(!?)まで守備範囲が広い
ここからは本題である「KAMINOGE」の記事は知識ゼロの私が読んでも面白いのか!?という核心に迫っていこうと思います。
今回私が読んだのは2021年2月に出版された110号です。平本蓮さんが印象的な表紙です。
結論からお伝えすると、
・知識ゼロの人が読んでも楽しめる企画が必ず入っていると感じた
・プロレスファン向けの企画も競技に関心を持つきっかけとして良質な記事になっている
・読了後の充実度が月刊誌のクオリティを超えている。情報量が本当に多い
という3点にまとめられます。
■プロレス知識ゼロでも大丈夫!お笑い芸人や女優さんのインタビュー企画も掲載
記事冒頭にも記載していますが、KAMINOGEは「特にプロレスを語らないプロレス本」としても知られているようです。これは一体どういうことなんだと疑問に思っていましたが、実際に読んで言葉の意味が分かりました。
文字通り、プロレスを全く語っていない企画も掲載されているんです(笑)。しかも、オマケ程度の扱いではなく、ページ数が多く割かれる企画……もっと言うとインタビュー企画として展開されています。
例えば110号の場合、おもしろい人はなぜおもしろいのかを調査する連載企画・「大井洋一の冗談じゃない!」で松竹芸能所属のお笑い芸人・みなみかわさんへのインタビューが掲載されています。
インタビューの冒頭でこそ、格闘技つながりでみなみかわさんがシステマを習う事になるまでの経緯を深堀りする話が出てきています。しかし、それもあくまでみなみかわさんの「お笑い芸人」としての生き様に迫るための切り口にすぎません。みなみかわさんは芸人として爆発したい!というギラギラしたハングリー精神はなく、「現状に満足している」というリアルな声を語っています。その理由やお笑いへのスタンスを、まるで飲み屋で交わされているようなトークを通して紐解ける内容となっていました。
他にも「KAMINOGE BLOOMING GIRL」という企画では西村知美さんへのインタビューが掲載されておりますが、こちらに至ってはプロレス、格闘技の要素は本当に一切ナシ!(笑)「新年の抱負」を主軸に、未だに街中でスカウトされる話から物忘れにバタバタしたエピソード、そしてカッパ捕獲の資格の話にまで広がるというなんとも自由気ままなインタビューとなっており、西村知美さんのチャーミングさが光る企画となっています。
この2つの企画のすごい点は、KAMINOGEの取材だからと言って無理やりプロレス・格闘技に絡めて相手の話を引き出そうとしていないことでしょう。そうではなく、インタビューする相手の人物像に焦点を当て、その人らしい魅力が伝わるような話の引き出し方がされているのです。だから、「プロレス本におけるオマケ・箸休み」程度の企画ではなく、例えばその芸能人の方のファンがその記事目的でKAMINOGEを購入して読んだとしても、しっかり満足できるような企画に仕上がっているのです。
ちなみに、個人的には「兵庫慎司のプロレスとはまったく関係なくはない話」でテーマに挙げていた「オールスタンディング」が危機を迎えている、の話も音楽好きの私にとって深く共感できた話でお気に入りです(笑)。音楽雑誌に寄稿するようなトピックを真面目にプロレス本で語っているのが乙ですね。
■プロレスファン向けの企画も、知識ゼロの読者が競技に関心を持つきっかけとして良質な記事になっている
そして、仮にプロレス知識ゼロの読者が先述のプロレス色ゼロのインタビュー記事をきっかけにKAMINOGEを手に取った場合、せっかくなら他の記事にも目を通してみようかな、となるんじゃないかと思います。私のように活字を読むことが好きな方ならなおさらです。
そのような視点からプロレス・格闘技絡みの企画を読み解くと、プロレス・格闘技に興味を持つきっかけになる良質な記事揃いであると感じました。
私の自論として「本当に”そのモノ”のことが好きな人が語る話は、”そのモノ”のことを知らない人が聞いても魅力的で面白い話に聞こえる」というものがあります。無論、”そのモノ”の魅力や惹かれる点、ハマってしまう理由を自らが一番実感している分、企画の着目点やプレゼンする内容が自然とそのモノを語るうえでは外せない、「最も面白いポイント」に濃縮されるんです。KAMINOGEのプロレス記事はまさにそれなんですよね。
例えば、110号の「玉袋筋太郎の変態座談会」では元祖アイドルレスラー・マッハ文朱さんとの対談が収録されています。失礼な話、私はマッハ文朱さんのことも女子プロレスの歴史のことも全く存じ上げていませんでした。しかし、対談を一度読み始めるとページをめくる手が止まらなくなりました。
この対談ではマッハ文朱さんが当時まだアングラだった女子プロレスをメジャーに押し上げることとなった功績とは一体どのようなものだったのか、そして現役生活はたったの2年8ヶ月・人気絶頂期に電撃引退に至ってから45年以上経った今、女子プロレスでの経験が今どのようにマッハ文朱さんの中で息づいているのかを、当時の思い出と共に語られています。
こう書くと、すごくニッチな話題のように感じるかもしれませんが、プロレスファンだけに通じる内輪感、というのが不思議と感じなかったんです。当時のプロレスを知らない私のような読者が読んでも良い塩梅に当時の温度感や表舞台の裏側の面白さが伝わるような掛け合いが玉袋さん、椎名さん、ガンツさんの投げかけから引き出されています。
マッハ文朱さんの人柄や、カリスマ性ある人物がどんなきっかけで女子プロレスの世界に足を踏み入れようと思ったのかが解剖されていくに伴い、「女子プロレスの世界で活躍しているレスラーの方って他にはどんな方がいるんだろう?」と自然と考える自分がいることに気づきました。
マッハさんだけでなく、110号の他のインタビュー記事も拝読し、プロレスラー・格闘家として戦うことを選んだ方って、自分が持っていない強い個性や信念、生き方を貫いていることを知りました。そんな方がライフワークとして選んだプロレス・格闘技という競技は「ただ殴り合って戦う」だけが目的なのではなく、実はもっと奥深いところに観戦の面白みやブームの発端が潜んでいるのではないか……と思い至ったのです。
選手の方にインタビューを行う、プロレス本として王道の企画から、プロレスを切り口に社会のあれこれを斬り込んで考察するオリジナリティ高い企画まで、一冊を通して多角的にプロレスの面白さに気付かせてくれるようなしかけが散りばめられています。
そのため、例え競技知識ゼロであったとしても、好奇心旺盛の方や自分の知らない世界にどっぷりと浸かってみたいと考えている方にとって、KAMINOGEは満足すること間違いなしの一冊になるのではないでしょうか。
■読了後の充実度が月刊誌のクオリティを超えている。情報量が本当に多い
KAMINOGEのページ数は175ページです。ページ数だけ聞いて多いと感じるか、少ないと感じるかは人によると思います。しかし、確実に言えるのは「読了後の満足感はページ数以上のもの」であるということです。
読み進めて気付いたのですが、KAMINOGEは広告の掲載が一切ありません。確認すると、KAMINOGEは月刊誌ですが雑誌ではないそうです。そのため、「捨てページ」が一切存在しない一冊になっています。これが充実感を得られる一つの要因になっているのではないでしょうか。
そして、じっくり読ませる企画がてんこ盛りとなっているため、活字を読むのが早い私でも一冊を読み切るのに3時間はかかりました。これは単行本の小説を読み切るとの同じ時間です(笑)。
もはや、読書ですね。月刊誌って、気楽にパラパラと読むイメージがありましたが、こういうじっくり趣味を追求するようなスタイルの本を読むのは初めてだったので新鮮な気持ちです。
これだけこだわりが詰め込まれた本を月に一度つくりあげる編集部の労力を考えると、「本づくり」に相当な熱量があるからこそ成せる一冊だと感じました。そして、本づくりの根底には「編集者」である以前に、「一人のプロレスファン」としての揺るぎない競技への愛が一番色濃く存在しているのが伝わります。
「誰よりもまずは、本をつくっている自分自身が読んでいて楽しいと思える記事を作る」という編集部の信念がこもっているからこそ根強いファンをたくさん抱えたプロレス本としての地位を確立したのでしょう。
KAMINOGEは1,200円(税別)で販売中。定期購読申し込みで1,120円(税込み・送料無料)!
110号を実際に読んだレビューの統括ですが……プロレス知識ゼロの会社員でもKAMINOGEは最初から最後まで非常に楽しく読むことが出来ました!
もちろん、プロレスのことを愛してやまない読者の方が読むと一番刺さる月刊誌であることは間違いないでしょう。
しかし、「プロレス古参ファンの閉鎖的な語り場」にするのではなく、「誰もが遊びに来れる、プロレスをテーマにしたアミューズメント」のような印象を受ける一冊でした。
そんなKAMINOGEですが、書店で1,200円(税抜)で販売されていると知ってまた驚きました。内容の充実度を考慮すると、「これ、採算取れているの?」と心配になるレベルです(笑)。しかし、1,200円というのは編集部の苦渋の判断により、値上げをした結果の額だそうです……つまり、昔はもっと安くで販売されていたということですよね。読者目線での本づくりの姿勢が徹底されています。
これからKAMINOGEを読んでみたいなと考えているビギナーの方も、毎月忘れずKAMINOGEを読みたい!という読者の方にもおすすめなのが定期購読です。
KAMINOGEの出版社である玄文社の公式ホームページより定期購読の申し込みが可能となっております。
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